温熱に対する経験知から科学の領域へ。 | ||
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「熱」を病気の治療に用いる方法は、驚くべきことに紀元前から存在していました。インドの古い文献『ラーマーヤナ』や、古代ギリシアで医聖と呼ばれたヒポクラテスには、皮膚にできた腫瘍を熱した鉄で焼くという記述があります。お湯で熱した金属や、熱湯を入れた袋を患部に当てる方法も用いられてきました。 ルネサンス(14〜16世紀)以降になると、丹毒、天然痘、結核、マラリアなどの「熱性疾患で腫瘍が自然退縮した例」が報告されるようになりました。1866年にはドイツ人医師W.ブッシュが、顔に生じた肉腫が丹毒による高熱で消失したことから、正常体温以上の温度を利用し、がん細胞を殺せるのではないかと提案しました。 今から100年ほど前、アメリカ人医師W.B.コーリーが数種類の細菌を使った「毒素のカクテル」を注射して発熱させ、治療不能のがん患者の延命を試み、「コーリーのワクチン」として評判になったそうです。 1975年、ワシントンD.C.で、温熱と放射線によるがん治療についての最初の国際シンポジウムが開かれました。これを契機にわが国でもハイパーサーミアが、新しいがん治療法として取り上げられ、研究されるようになりました。1988年に日本で開催された第5回の国際シンポジウムには、800人以上の参加がありました。 日本では、温泉で患部や体を温めることが、いわゆる民間療法の中に根付いています。各地の温泉には、鳥や獣が湯につかって傷を癒やしたのが発祥であるという伝説が多く伝えられています。ハイパーサーミアはそのような経験知の世界に、新たに科学の光を当てたといえます。 | ||